新そよ風に乗って 〜夢先案内人〜
「まさか……」
「恐らく、そのまさかだ。高橋君」
「グリーンメール」
自分の発した言葉に唇を噛みしめながら、その衝撃に耐えていた。
「そうだ。理由を詳らかにする必要もないがな」
副社長夫人が買い占めている。考えられる、その先のアクションとして……。
「社長。副社長、若しくは副社長夫人からは……」
「まだ何も言ってきてはいない。だが、それも時間の問題だろう。どう出てくるかでこちらのアクションも考えておかなければいけないのだが、高橋君。君の率直な意見を聞かせて貰おうか?」
社長の目が、俺の瞳の奥を覗き込んでいるように見えた。
グリーンメール。株式を多数保有、買い占める事によって、議決権行使において経営側に圧力を掛けて、株式を他社に転売すると企業を脅し、保有株式を高値で買い取らせて利益をあげる方法。この場合、他社に転売するとしたら、一番、我が社が懸念する企業。転売して欲しくない企業は、恐らく東日航空。東日航空を切り札として出して来るだろう。そうする事で、我が社は多大な損失を招く。そこを突いて経営陣の退陣及び、副社長は社長の椅子を手に入れようというのか。そんな無茶な話があっていいものか。そこまでして……。下手をすれば、共倒れにも成りかねない事態だ。
頭の中で、大学で受けた講義の内容と教科書の断片的なページとその見出しが、所々、思い出され、グリーンメールの対処法が何かなかったかどうかを必死に己の脳内教科書のページを捲り続けている。高値で買い戻すしか方法はないのか。あっ……。一瞬、教科書のたった一行の文面が思い出された。
そうか!敵対的買収の一種、買収者がターゲット。これだ。
「社長」
それまで俺が口を開くのを黙って待っていてくれた社長に視線を再び合わせると、社長はソファーの背もたれからゆっくりと背中を離し、テーブル越しに身を乗り出した。
「社長は、会社にとって不利益となる情報を一般に開示し、その根本にある負の部分と新たに情報を開示することによって発生する負の部分とを掛け合わせ、負と負から、つまりマイナスとマイナスからプラスに転じる方法を取ろうとしたら、どう思われますか?」
社長の眼光が、鋭く俺の瞳を射る。