新そよ風に乗って 〜夢先案内人〜
半身浴で、冷房で冷え切ってしまった手足を温めながらそんなことを考えていた。浮腫はモデルにとって大敵であり、まして翌日撮影がある時などは、細心の注意を払わなければ覿面に出てしまうので、19時以降の飲食はしない。しかし、最近では翌日撮影のない時でも、19時以降の飲食は極力避けている。結局、私は貴博さんの心の中の本当の気持ちが、最後までわからなかった。ミサさんになら、わかったのだろうか? 貴博さんのあの時の本当の気持ちが……。
早朝の撮影をこなしながら、笑顔をつくる。いつかテレビで見たことがあった。タレントの本音のような番組で、熱があっても、気分が悪くても笑顔をつくらなければならない。それがタレントの宿命。けれどどんな仕事に就いてもそれは同じで、行きたくなくても苦手な取引先に会いに行って頭を下げなければいけないことも、それは仕事だから故のこと。人に見て貰う仕事をしている以上、不快な思いをさせてはいけないと話していた。その意味が凄く理解出来るし、私もそう在りたい。
「お疲れ様でした」
「それじゃ、泉ちゃん。これから取材なんだけど、スポンサーさんの協力で衣裳はそのままでいいから」
「はい」
マネージャーに言われるまま着替えはせず、そのまま車に乗って取材場所へと向かう束の間の時間。後部座席で眠っていて、最近ではマネージャーの、「着いたよ」という声を掛けられるまで、何処でもすぐに寝られるようになっていた。
「おはようございます」
「こんにちは」
業界用語にどうしても慣れず、どうしても普通の挨拶になってしまう。いけない事ではないのだろうが、一瞬、違和感を覚えるのだろう。相手の人にもう一度、顔をマジマジと見られる事が多い。
「お忙しいところ、お越し下さいまして、ありがとうございます。対談のお相手の方も、もうお見えになっておりますので、準備がよろしければセットの方にお越し下さい」
「はい。メイクだけ直して、すぐに伺います」
そう、マネージャーが応えると、そのままメイク室でメイクさんにメイクとヘアーを直して貰い、セットの方に向かった。
「失礼します」
「よろしくお願いします」
進行役の雑誌社の人に案内された方の椅子に座る。もう一つ椅子が用意されており、そこに紅茶の入ったティーカップとパウンドケーキが並べられた。
もう一人は、誰が来るんだろう?対談とは聞いていなかった。ただ、雑誌の取材だと……。
「あの、もうお一方はどなたなんですか?」
「あぁ、まだご存じなかったのですね。もうお一方は……」