新そよ風に乗って 〜夢先案内人〜
「多くの学生が将来の進路を惰性で決める世の中にあって、多分に漏れず、恐らく君も惰性で決めようとしている若者のひとりと見受けられる。だが、どうせ惰性で生きる人生を選択しようとしているのならば、ここはひとつ、グローバルな物の見方や考え方の出来る君の、その若さと才能を持ってすれば可能であろう将来の選択の夢先案内人を、他人に任せてみてはどうだろう。その他人というのは、他ならないこの私なんだが」
将来の選択の夢先案内人。教授が?
「あの、何を……」
皆目検討もつかない教授のこの先の言葉に不安を覚え、思わず話の途中だったが口を挟まずにはいられなかった。
「一度しか言わないから、そのつもりで」
「はい」
「公認会計士を、目指したらどうかね?」
公認会計士?
「申し訳ありません、教授。それは……」
「質問は受け付けない。自分で調べたまえ。ただ君の性格と物事の考え方や捉え方、見方。それらを総合すると、君のモチベーションを高め、才能を発揮出来るグランドの選択肢としてベストな職種だと老婆心ながら私は思っている。この二日間で、君なりに調べて報告を待っているよ」
教授は昨日、未定と二文字だけ書いて提出した書類に赤ペンでレ点だけ書き入れると、俺に差し出した。
「良い手本も、身近に居る」
エッ……。
書類を受け取った途端、投げかけられた言葉に反応して教授を見ると、すでに教授は次の面接を控えたゼミ生の書類に目を通している。
それは暗に質問は受け付けないと先ほど釘を刺された行動の現れともとれ、俺はそのままお辞儀をした。
「ありがとうございました」
「次の人、呼んできて。ドアは開けっ放しでいい」
部屋を出て行こうとする俺の背中に向かって教授が言葉を発し、ドアから出る直前、もう一度教授の方に向かって一礼する。
「はい。失礼します」
少なからず最初は拮抗していた視線も、最後には教授の視線が顔の目の前まで押し寄せてきたと感じられるほど迫力ある眼力に圧倒され、何も言い返せないまま部屋を出た俺は、敗北感というより新鮮な気持ちすらしていた。
惰性で生きる人生より、たとえ惰性でも生き抜いてみせる人生。
将来の選択の夢先案内人。公認会計士……。
次の面接の番のゼミ生に声を掛けた後、席に戻ると俺は早速パソコンを開き公認会計士の検索を始めた。
「どうだった? いきなりパソコン開いたってことは、何か手応えでも?」
仁の敏感な反応に少し面食らいながら、パソコンの起動の遅さにはやる気持ちを必死に抑えて平静を装う。
「どうもこうも、すべてお見通しで押し切られた」
完敗とは、まさにこういうことを言うのだろう。
「そう。あの教授、結構狸だしな」
何かを悟ったのか、仁もそれ以上は突っ込んで来ない。
起ち上がったパソコン画面に公認会計士の文字を入れ検索を開始すると、かなりの数の検索データが羅列されていた。
公認会計士は、医師、弁護士とともに三大国家資格とも呼ばれており、監査及び会計の専門家として独立した立場において、財務書類、その他の財務に関する情報の信頼性を確保することにより、会社等の公正な事業活動や投資者及び債権者の保護等を図り、国民経済の健全な発展に寄与することを使命とする。
最近では、監査業務の延長としてのコンサルティング業務が会計士の業務に大きな役割を占めるようになってきている。監査対象たる会計主担からの独立性に特徴がある。
また無試験で、税理士・行政書士登録が出来る。(税理士法3条4号、行政書士法2条4号)
過去5年の受験者数と合格者数は……。