新そよ風に乗って 〜夢先案内人〜
マネージャーに言われたとおりの受け答えをしていた。「目標は何か?」というような質問を受けた時は、決まってこのような受け答えをするよう言われている。
「アッハッハ……。それは事務所の考えでしょ? 私は、貴女自身の言葉で聞きたいの。あっ、ごめんなさい。ここのところはカットして貰えるかしら?後で、他の質問で埋め合わせするので」
ミサさん……。
「はい。承知しました」
進行役の雑誌社の人も、ミサさんの問い掛けに快諾してくれている。快諾というより、ミサさんの有無を言わせない雰囲気に呑まれていると言った方が良いのかもしれない。
「武道館でライヴが出来るようになった時、その時が、私にとっての一つの到達点だと思っています」
「武道館でライヴ……ね」
その昔、貴博さんに夢を語ったことを思い出していた。
「その到達点が、通過点になることを私も祈っているわよ」
「ミサさん……」
「達成感を味わって、これ以上の幸せはないと思っていては駄目。それは単なる余韻に浸っているだけのことで、その後の自分の向上には決してならないから。一つの節目。一つの区切りとして、武道館のライヴがあったというように考えるといいわ。人間、ハングリー精神を失ってお腹いっぱいの状態で過ごしていると、それ以上の器の大きさは望めないの。達成感に自己満足しているだけでは、そこで終わりよ。次の自分の目標を定めないとね。これで良い。これだけやったのだからもう良いだなんて、自分が決めているだけであって、傍から見たら自分に酔っているとしか思えない自己陶酔のナルシスト。ステップアップを図らなければ、周りの人からも飽きられてしまう。貴女がその後、また新たにスタートを切って次の目標へと努力しようとすれば、その努力に報おうと一役買ってくれるスタッフもまた自然と集まってくるはず。一人では何も出来ないこともあるし、自分で努力すればしただけ、その周りには良いスタッフも揃って来る。そういう世界なの。この世界はね」
ミサさん。
「何事も、これで精一杯という境界を作っては駄目。たとえ不可能であったとしても、それを可能に出来るのも自分次第よ」
ミサさんが私に伝えようとしてくれていることが、今の私には理解出来た。恐らく、昔の私では理解出来なかっただろう。ただひと言、「そんなの無理です」と言って、突っぱねていたに違いない。
「ありがとうございます。ミサさん」
「お礼を言われる筋合いでもないわ。小言でもあるわけだし。それに……。貴女も私に聞きたいことがあるんでしょう?」
「そ、それは……」