新そよ風に乗って 〜夢先案内人〜

図星だった。ミサさんに聞きたいことが沢山ある。それは、すべて貴博さんに絡んだことなのだが、果たして応えてくれるだろうか?
「あの……」
「ごめんなさい。ちょっと、席を外して貰ってもいいかしら?」
ミサさんが、いつか言った同じ台詞をまた口にしていた。
「はい。終わりましたら、お声を掛けて下さい」
「ありがとう」
ミサさんは穏やかな笑みを浮かべながら礼を言うと、部屋から出て行った雑誌社の人の後ろ姿を見送り、私に向き直った。
「さぁ、貴女の中にある疑問を吐き出していいわよ」
お見通しなのだろう。私は、そんなにわかりやすい表情をしていたのだろうか?
「あの……。貴博さんのことなのですが……」
「貴博?」
わかっているのに、敢えて聞き返してくるミサさんの対応の仕方は、やはり大人の対応で……。
「ミサさんが、貴博さんと交わされた約束というのは、何なのですか?」
「貴博と交わした約束?」
「そうです。私と同じ思いはさせないで欲しいとか、ミサさんが貴博さんに言った……」
「あぁ、あの約束ね」
あくまで、今、思い出したかのような言い方。こういう人を魔性の女というのだろうか。それとも、天性の頭の回転の速い女性というべきなのか。
「あれは、貴女が遅かれ早かれ、頭角を現してくるとわかっていたから」
「えっ? どういう意味ですか?」
あの頃の私は、まだオーディションにやっと受かったばかりの駆け出しのモデルで、そんな私のことをミサさんがそんな風に思っていたとは、およそ考えられない。
「貴女の可能性に私は賭けてみたかったの」
「可能性……ですか?」
「そう、可能性にね。私にそう思わせたのは、少なからず貴博も関わっていたけれど」
「貴博さんが? 何故、貴博さんが関わっていたんですか? 教えて下さい。ミサさんと貴博さんとの間で交わさせた約束って、何だったんですか?」
私の可能性に賭けただなんて、信じられない。今も、あの頃も、変わらずモデル界で知らない人は居ないほどのミサさんともあろう人が、何故、駆け出しの私なんかに……。
「言ったでしょう? だから可能性に賭けてみたかったのよ。貴博が好きになったぐらいの人だから、それなりに光る何かを持っていたはずだと思ったから。正確には、好きになりかけていたというのかしら?他の人とは違う惹き付けるものを持っているそんな貴女だったから、その可能性に賭けてみたの」
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