新そよ風に乗って 〜夢先案内人〜

そんな……。貴博さんが好きだったとか、好きになりかけていただなんて、どうしてミサさんにわかるの?ミサさんと貴博さんの関係は、お互いの心の中までも読めるほどにまでなっていたの?
「だから社長に話して、貴女の将来の道標をお願いしたの。勿論、貴博もこのことは知っていたわ。だって、貴博に貴女のことを根掘り葉掘り聞いていた時点で、薄々、貴博は気づいていたはず。そして、私が……私と同じ思いはさせないで欲しいと約束してと言ったから、貴博はいずれこうなる日が来ることをわかっていたのよ」
「そんな……。そんな、貴博さんが……。私の未来を知っていたなんて。そんなのって……」
貴博さんが言った、ひと言、ひと言が断片的に思い出されていた。こうなることをわかっていて……。それで、敢えて貴博さんは別れを自分から切り出した。そんなのって……。私の夢を実現させるために、私は貴博さんを失ったなんて。
「きっと貴博の気持ちは、貴女にはわからないでしょうね」
わからない。わかりたくないのかもしれない。貴博さんがミサさんとの約束を優先させたこと。貴博さんの思いは何処に封じ込めたの?私の気持ちは、どうでも良かったってこと?すべてが、私の夢を実現させるため。そのためには、好きだった大切な人への思いも、その人の気持ちも、すべて泡沫夢幻のように消えてしまったなんて。
「わからないです。わかりません……。私には……」
「まだわからないのかもしれないわね。本当に人を愛するということの意味が、貴女には」
本当に人を愛するということって、何?
「ただ好きで、一緒に居たくて、楽しい時間を過ごせるだけが愛情表現じゃないのよ。時に、相手の行く末、自分の立場、お互いにとってどの道を選択することが一番なのか。その見極める目と行動と決断が必要な時もある。大切な人の将来を考えた時、自分がその人にとってどうあるべきか。時に相手を慮ってこそ、離れなければいけない場合だってあることを貴博は知っていたの。敢えて厳しい言い方をすれば、貴女の将来に、消去法でいけば貴博は必要なかったってこと。平たく言えば、自分が居ては貴女が大成出来ないと、貴博は思ったんでしょうね。酷い言い方かもしれないけど、そこまで貴博が貴女のことを考えてくれていたことは事実。その断腸の思いで貴女に別れを告げた貴博の気持ち、いつかわかる時が来ると良いのだけれど……」
貴博さん……。
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