新そよ風に乗って 〜夢先案内人〜
「もういいかしら? 質問は、それでおしまい?」
あっ。気が動転していて、危うく終わりですといってしまいそうだった。まだ終わりではない。もう一つ、聞きたいことがある。
「もう一つ、教えて下さい。ミサさんが私に、貴博は、誰にも渡さないからと言ったのは何故ですか?貴博さんのことをこれだけ知り尽くしているミサさんなのに、ミサさんから貴博さんに別れを告げておいて、どうして誰にも渡さないとか私に言ったりしたんです? それなら何故、貴博さんと別れたんですか? どうして、他の人と結婚なんてしたんですか?」
「……」
「ミサさん!」
ティーカップに入った紅茶を一口のみ、大きく溜息をつくと、ミサさんは口を開いた。
「貴博を……貴博を失いたくなかったからよ」
「えっ?それ、どういう意味ですか?」
ミサさんの言っていることが、よくわからない。貴博さんを失いたくなかったからって、どういうこと?
「いつまでも、貴博と一緒に居たかったから」
どういうこと? いつまでも、貴博さんと一緒に居たかったからだなんて……。
「どうして……。貴博さんを失いたくなかったとか、一緒に居たかったからとか、おっしゃっている意味がわからないです」
「人間、知らない方が良いこともあるわ。貴女は、貴博が好きだった。そして私は、貴博を愛していた。それだけのことよ」
「それだけのことって……」
ミサさんを見ると、それ以上の言葉は出てこなかった。出てこなかったというより、声が出なかったと言った方が正しいのかもしれない。それほどに、ミサさんは不敵な笑みを浮かべながら私を見ていたのだった。そしてミサさんは立ち上がると、ドアを開けて関係者を呼び寄せた。
「お待たせして、ごめんなさい。続きを始めましょう。お互いの質問の代わりと言っては何だけど、これからモデルを目指している人達のために、お互いの要望や希望を含めたアドバイスなんてどうかしら?」
「それ、いいですね。とても参考にされる読者も多いと思いますよ」
何事もなかったように、雑誌社の人と会話を交わしていくミサさんの姿を見ながら、自分の器の小ささと共に、貴博さんへの思いやミサさんの不敵な笑みに隠された心など、混乱した頭の中を整理出来ないまま、等閑の受け答えをしながら対談を終えていた。