新そよ風に乗って 〜夢先案内人〜
何年ぶりかに交わす、貴博さんとの会話。やはり名前を口にしただけで緊張している自分に、進歩のなさを感じる。
「こんにちは。久しぶり」
「こ、こんにちは……」
貴博さんに逢ったら、あれも話したい。これも言いたいと頭の中で何年も思い描いていたのに、いざ逢った途端、何も言えなくなってしまった。何か話さなきゃ……。
「これから仕事?」
「えっ? あっ、はい。撮影でロサンジェルスに行きます」
「そう。それは凄いな。頑張っているんだね」
貴博さん。そんな優しい眼差しで私を見ないで。苦しくて、哀しくなってくるから。
「そ、そんな凄くないです。アルバムのジャケット撮影です」
「ん? それ、俺に言ったらまずいんじゃないのか?」
「あっ……」
「大丈夫だ。他言はしない」
「すみません」
貴博さんの言葉の一つ、一つが胸に刻まれていく。恐らく、もうこうして逢えることもないかもしれない。それを貴博さんも知っている?ちゃんと、貴博さんと向き合って話さなければ。
「貴博さん。お陰様で、デビューの日が決まりました。これから、そのアルバムのジャケットの撮影に行くんです」
敢えてもう一度、きちんと説明をする。貴博さんだからこそ、言ってはいけないことだとわかっていても、自分の口から伝えたかった。まして、こうして逢えているのだから、伝えなければいけない気持ちでいっぱいだった。
「おめでとう。これから益々、忙しくなるな」
「そうでしょうか?まだ何もわからないんですけれど、精一杯、頑張ろうと思っています」
すると、貴博さんは黙って頷きながら優しく微笑んでくれていた。
「貴博さん……」