新そよ風に乗って 〜夢先案内人〜
「ん?」
「あの時は、本当にごめんなさい。私……貴博さんの気持ちも知らないで、あんな酷い事を……」
「……」
貴博さんは何も言わず、身じろぎもしないで視線を合わせたまま、私の話しを聞いてくれている。
「私だけが辛いと思って周りに当たり散らして、お話出来ないような酷い荒んだ行動を起こして、どうしようもない日々を送っていました。でも、そんな私を救ってくれたのは、周りのスタッフの人達と……ミサさんでした」
ミサさんの名前を出したが、貴博さんは全く動じない。予期していたのだろうか。それとも貴博さんだからこそ、冷静さを保てるのだろうか。その両者なのかもしれない。
「ミサさんのモデルの仕事に対するプロフェッショナルなものの考え方と行動が、私をまたこの世界に戻してくれましたし、貴博さんの本当の気持ちに気づかせてくれたのも、ミサさんでした。貴博さん。本当にごめんなさい。そして、ありがとうございました」
一気に言い終え、深々とお辞儀をすると、貴博さんが私の両肩を持ってお辞儀をしたままの私を、元の姿勢に戻してくれた。
本当に久しぶりに私の両肩に触れた、貴博さんの両手。その手の大きさに比例するような深い優しさと愛情の籠もった行動に、今更ながら、貴博さんの温かさを感じる。懐かしい貴博さんの香りがする。
「あの時……」
えっ?
「もっと違う言葉で君に接することが出来なかったのかと、ずっと考えていたこともあった」
「貴博さん……」
「けれど、過ぎてしまったことを後悔しても始まらず、俺自身の夢と目標を実現することで、君に報いなければいけないと思うようになっていったんだ」
貴博さんが、私に別れを告げた時に言った言葉を後悔していた?
「君が頑張っている姿を人伝に聞いていて、だからこそ、今の俺があるのかもしれない」
貴博さんが、私のことを気にしてくれていたなんて信じられない。嬉しさとそんな貴博さんの優しさに気づけなかった自分に哀しくなってしまう。貴博さんは、そういう人だと一番わかっていたはずなのに……。
「これから先、お互い、困難が待ち受けているかもしれない。人生、すべてが順風満帆なわけはないのだから。たとえどんな困難な壁にぶつかったとしても、それは気持ちの持ちようだと思う。自分の思い通りに運ばないことだってある。理不尽な要求も、時として呑まなければならないことも……。けれど、自分というものを持っていれば、必ずそれは克服できる壁だと俺は思う。自分一人だけではどうにもならないということ、人の助けがあってこそ成り立っている己の立場に感謝の気持ちを忘れずに居れば、自ずと道は開けてくるはずだから」
自分一人だけではどうにもならないということ、人の助けがあってこそ成り立っている己の立場に感謝の気持ちを忘れずに居れば、自ずと道は開けてくるはず……。