新そよ風に乗って 〜夢先案内人〜
時間にして、五分間ぐらいの長かったような短かったような面接が終わった。
何を話したか、殆どあまりよく覚えていない。他愛ない笑いの絶えない会話が延々と続けられ、将来の夢は? と聞かれて貴博さんに言われたとおり、胸を張って「ミュージシャンになって武道館でライヴをやることが夢です」と物怖じせず答え、その後椅子の横に立って後ろ姿を見せてと言われ、それに従ったところで面接は終わった。
何か、呆気なかったな……。
帰り道。不完全燃焼気味のせいか、あの時あぁ言えば良かった。こう言えば良かったと反省ばかりの受け答えだったことに落胆する一方だったが、もう済んでしまったことは仕方がない。
気持ちを切り替えて沖縄に行く準備を翌日、仕事が終わってから始めていると、玄関のインターホンが鳴った。
「郵便局です」
「あっ、はい」
慌てて玄関のドアを開けると、速達の封書を郵便局の人が持っていた。
「印鑑は、いりませんので」
「どうも……」
ドアを閉め、誰からだろうと差出人を見ると、オーディションを受けた事務所からだった。
急いで封をハサミで切り中身を取り出して広げると、合格の二文字が見えた。
?……。
私、合格したの? 信じられない。
何度も読み返したが、合格の二文字と契約のため事務所に来てほしい日時と持参するものが明記されていた。
「やったぁ!」
封筒を握りしめて大声を出してしまい慌てて我に返ったが、そのままジッとしていられず、部屋の中をウロウロしてばかりいる。
貴博さん……。
この時も、真っ先に頭に浮かんだのは貴博さんだった。
知らせたい。いちばん最初に、貴博さんに……。でも、あれからもう一年近く会っていない。
ううん。正確には、会えないでいる。
貴博さん。今どこで、何をしていますか?
あなたに会って、伝えたいことがあります。
嬉しさに浸りながら眠りに就いた翌朝は、朝一番の飛行機にも関わらず、心地よい目覚めで空港に向かえた。
集合場所に行くと、まだ人もまばらでスタッフの人からチケットを受け取りロビーのベンチに座ってみんなが集まるのを待っていると、時間を持てあまして、さすがに朝早かったので睡魔が襲って来た。
だんだんパラパラと人が集まり始め、話し声も沢山聞こえてきたが、目を閉じたままベンチに座り出発ですと言われるまで過ごそうとしていたが、その中に一気に眠気もすっ飛ぶような声が混じって聞こえて、慌てて目を開け辺りを見渡す。
エッ……貴博さん?
しばらく目を閉じていたので、ロビーの景色がぼんやりと見える。
空耳? 夢?
でも確かに今、何処からか貴博さんの声が聞こえた気がした。
あっ……。
忙しく視線を動かしていたが、すぐに一点に集中した。その先には、ずっとこの一年間、忘れたことはなかった……。
今、いちばん会いたかった人。貴博さんが、スタッフの人と談笑していた。
するとあまりにも私がジッと見過ぎていたのか、視線を感じた貴博さんがこちらを見たので目が合ってしまい、慌てて座ったままだったがお辞儀をすると、貴博さんは優しく微笑んで小さく胸の前で手を挙げてくれた。
貴博さん……。どんなに会いたかったか。
オーディションに合格したことを、早く伝えたい。
けれど機内でも貴博さんと席はかなり離れていてなかなか話せる機会がなく、空港についてからすぐに撮影現場に向かい仕事が始まってしまった。