新そよ風に乗って 〜夢先案内人〜
「終わっていないという言い方は語弊があるのかもしれないが、俺の中ではまだ終わっていないし、終わらせられない。心身を錬磨するためには、まだあの人とのことは終わりに出来ないんだ。自分の人生は自分次第でどうにでもなるし、なってしまう。大切な人と一緒に人生を歩みたいとたとえ思ったとしても、遠慮したりされたりとか、自分以外の人の人生を負の意味で左右させるようなことだけはしてはいけないことを、あの人から教わった。こんな物事の考え方をする俺を、人は女々しいと思うかもしれないが、巧遅は拙速に如かず。俺はあの人との事がきっかけで、将来進むべき道を決めた。その過程で、あの人とのことをまだ終わらせることは出来ないんだよ」
これは俺の本心なのか。否、自分に言い聞かせるために、ご託を並べているだけなのか。正直、どっちなのかは、今はハッキリとは言い切れないすべてが中途半端な自分が居る。
「そのピリオドは、いつ打たれるんだ?今の状態じゃ、泉ちゃんは……」
「会計士の試験に受かった時点で、俺の応えは出ると思う」
「それじゃ、泉ちゃんが可哀想だろう。それまで待たせる気なのか、彼女を」
「……」
責められて当然なのだろう。彼女に、思わせぶりなことをしてしまったのだから。しかし、何故かそれ以上、仁はそのことに触れては来なかった。もしかしたら、仁に悟られたのかもしれない。もう、恋はしないかもしれないと言っていた俺なのに、不思議と彼女のことが気になっていたことを……。
「泉ちゃん。それじゃ明後日は雑誌OJの撮影だから、朝六時に迎えに行くから」
「はい、よろしくお願いします」
事務所の専属モデルになってからというもの、本当に生活が一変したといっても過言ではない。
私専属ではないがマネージャーさんが付き、ヘアメイクさんも今までの仕事の時とは違い、事務所専属の人が付いてくれていた。
専属モデルになった当初、マネージャーさんがわざわざ迎えに来るのは大変なので、現場に直接一人で行かれると言ったら、事務所に所属するということは……から始まって、懇々と語られてしまった。専属モデルになると、こんなにも違うものなんだということを、事ある毎に実感している。
「おはようございます」
今朝もノーメイクのまま、迎えにきてくれたマネージャーさんの車に乗って撮影現場へと向かう。現場でメイクさんがメイクしてくれるので、朝はノーメイクで来るよう指導された苦い想い出の初日を、今でもハッキリと覚えている。あれから二ヶ月。少しだけ慣れてきた今の生活だった。
「泉ちゃん。今日は新年特大号の撮影だから冬物着るから暑いけど、泉ちゃんも表紙に載るかもしれないから頑張って」
「えっ……。ひょ、表紙って」
私が、表紙に載る?