新そよ風に乗って 〜夢先案内人〜
「お願いしまぁす」
その時、スタッフの声がして、あちらこちらから「お願いします」の声が聞こえてきて、一斉に周りの人達が持ち場へと散っていった。
「お待たせしました。ミサさん、こちらへどうぞ」
「懐かしいから、また後で話聞かせてね」
「は、はい」
今日着るであろう、沢山の冬物の服を抱えたスタッフとスタイリストが、ミサさんのところに来て控え室へと案内していった。
やっぱり違うな。他の人とはオーラもそうだし、存在感そのものがすでに違う。居るだけで、何だか圧倒されてしまう。
「今日のスケジュールを発表しますので、皆さんこちらに集まって下さい」
専属といってもまだ駆け出しの私は他のモデルの人達と一緒に説明を受け、みんな一緒の控え室へと案内されてそこで言われた通りの衣裳に着替えたが、しっくり来ないとスタイリストさんに言われ、何度もインナーを変えたりジャケットを変えたりして、さながら着せ替え人形のように何着も服を着替えて、やっと決まるとメイクさんがメイクと髪の毛のスタイリングを整えてくれていた。
「泉ちゃん。先に表紙撮るから、こっち着てくれる?」
「あっ、はい」
メイクさんが少しムッとしていたが、チーフの言うことには逆らえない。
「スミマセン。着替えてきますね」
メイクさんにひと言断ってから、言われた服を持って衝立で仕切られた更衣室に向かう。更衣室といっても衝立で仕切られるだけなので、衝立の上から覗けば見えてしまう。
しかし、衝立があるだけまだいい。ショーの時などは、楽屋は戦場と化していて時間との戦いだからすぐに次の衣裳に着替えなければならず、傍に男の人が居てもお構いなしの空気が流れている。
最初は抵抗があったが、そんな傍に居る男性スタッフもいちいち見てはいられないぐらい忙しそうなのでそれがわかった今は、前ほど抵抗はなくなって少し気が楽になっている要因もある。
もう一度、メイクさんに髪を整えてもらってからスタジオの隅で出番を待つ間、先に撮り始めていたミサさんの立ち位置やポーズの決め方などを見ていた。
やっぱりポーズの決め方ひとつとっても様になっていて、ぎこちなさもまったく感じられない。流れるようなポーズの変化に合わせ、表情も凄く豊かだ。笑顔も本当に嬉しそうに見える。カメラのレンズを通して見たら、もっと素敵なんだろうな。
そうしているうちに、ミサさんが控え室に消えている間に他のモデルの子が同じ立ち位置に立ってポーズを決めていたが、明かにミサさんとは違って何となくぎこちなさが私にも手に取るようにわかってしまう。
きっと私も今撮影している子と同じぐらいか、若しくはそれ以下なのだろう。もっともっとモデルの先輩の良いところを見習って、自分のものにしていかなければいけない。
「それじゃ、カンナちゃんと泉ちゃん。ミサさんがもうすぐ来るから、こっち来て。立ち位置決めるから」
「はい」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
初対面のカンナさんと一緒に、カメラの前に立つ。カンナさんは慣れているようで、とてもリラックスしていた。
「ミサさん。お願いします」
「はい」
ミサさんが控え室から登場すると、パッと周りが明るくなった感じがする。そしてミサさんがライトの横を通って、私のすぐ隣に立った。
何だか隣に立っているだけでも、ドキドキしてしまう。
「それじゃ、ミサさんをセンターにして、二人は……。カンナちゃんが左側で、泉ちゃんが右側に。外側の肩を前に出すようにして、膝に手を置いてみてくれる」