新そよ風に乗って 〜夢先案内人〜
貴博さん、私は……。
でも考えてみたら新年号の表紙にミサさんが載っているのを、遅かれ早かれ貴博さんは知ることになるかもしれない。たとえ私が隠してみたところで、貴博さんはミサさんがモデルに復帰したことを知ったら貴博さんに私が隠していたみたいになってしまう。
いつまでも隠せる訳もないのだから、貴博さんにちゃんと話そう。ミサさんに仕事で会ったこと。そして、ミサさんにも本当の事を話そう。貴博さんとは、一緒に仕事をしていた時期があったことを。
「貴博さんとは、一緒にお仕事をさせて頂いたことがあります」
「ホント? 貴博は元気にしてる?」
貴博は……か。ミサさんにとって貴博さんは、結婚した今でも特別な存在なのだろうか?
「元気にしていらっしゃると思います」
私も沖縄の仕事で会った後、貴博さんとは会っていない。メールも来ないし、私からもしていない。きっと貴博さんは、忙しいはずだから。
「貴博は、まだあのモデルクラブに居るの?」
ミサさんは、貴博さんがモデルのバイトを辞めたことまでは知らないんだ。何だかそのことが、無性に私の心を安堵させていた。何故ならミサさんが知らないということは、貴博さんからミサさんに連絡していないという事だから。
「貴博さんは、もうモデルのバイトは辞められたんです」
「えっ? 辞めたって……。貴博が? 何で?」
ミサさん。何故、ミサさんがそこまで貴博さんに拘るんだろう?
「私もよくは知らないのですが、大学に戻られたみたいです」
どうしても貴博さんがモデルのバイトを辞めた本当の理由を、ミサさんに言えないでいる。言ってしまったら、何だか貴博さんの夢が壊れてしまいそうで……。でもそれは、嘘。本当はミサさんに、また貴博さんの心を奪われてしまいそうで怖いから。
「そうなの……。気になるから、貴博に連絡してみるわ」
嘘でしょう。やめて欲しい、それだけは。
「やめて下さい。貴博さんは今、大切な時なんです。お願いします、ミサさん。もう貴博さんのことは、そっとしておいてあげて下さい」
「……」
ハッ! しまった。