新そよ風に乗って 〜夢先案内人〜
「公認会計士に受かる勝算は、ありますか?」
俺は、なかなか突っ込み甲斐のある学生なのかもしれないな。
「はい。必ず受かるつもりでおります」
「そうですか。経営のことに、興味があるということですね」
「はい。とても興味があります。今現在、私は会計士補の資格しかございませんので拙速に仕事をこなすことは出来ませんが、その点は猶予を頂きたいです」
「今日はご苦労様でした。また次回、面接をさせて頂くかもしれませんが、その際は明日中にご連絡させて頂きますのでよろしくお願いします」
「よろしくお願いします。ありがとうございました」
面接を受けた会社を後にして、地下鉄に乗りながら窓ガラスに映る自分の顔を見ると、流石に緊張から解き放たれてドッと疲れが出たのか目が充血していた。
駄目だな。初日からこんな事じゃ、世の中渡って行かれない。着慣れないスーツに身を包んでいるせいか、肩まで凝っている。
自分の人生の中で就職活動の期間は振り返れば本当に短いものなんだろうが、今はその真っ直中にあって、しかも他の学生よりも遅れている。早い人では6月以前に内定をもらっていたりしているが、俺はまだ狙っている会社の会社訪問解禁日が遅く一社も決まっていない。
お袋はいろいろ誰かの紹介で……などという話を持ちかけて来たりしていたが、自分の受けたい企業にコネクションはなかったし、また誰かの伝手を頼るというのも何となく気が進まかったというのが本音だった。
しかし、昼間の疲労を打ち消すように会社から連絡が入り、その後二回の面接を経て、明後日の社長面接の時間を告げられた。
社長面接か……。
いったいどんな事を聞かれるのだろう。会社の概要や社史編纂など自分で集めたものを再度熟読し、資本金などの詳細ももう一度確認及び暗記をして社長面接に臨んだ。
「よく来てくれましたね。お掛け下さい」
ズラッと並んだ、いわゆる役員面接の最終関門である社長面接。足下を今にもすくわれそうな錯覚を覚えるほど、存在感のある面々が五人並んでいてその中央に画像で見た社長が座っていた。
「失礼します」
「早速ですが、我が社を選んでくれたことに敬意を表します」
エッ……。
「経理の仕事に興味があるとのことだから、おおよそのことはわかっているとは思いますが、我が社は今、経営危機の一歩手前まで来ていると言っても過言ではないのです。他社の経営の仕方とは若干違うので一外には言えないとは思うのですが、そんな企業でも高橋さんは働きたいと望んでいますか?」
直球で来たか。