新そよ風に乗って 〜夢先案内人〜
考えれば考えるほど、泣きたくなってきてしまう思いと戸惑いの心を沈めようと必死になりながらも足早に北ゲートに着くと、貴博さんと仁さんが笑いながら話している姿が目に止まった。止まったというより、無意識に貴博さんを捜していたのだろう。良かった。まだミサさんとは対面していない。でもそう思ったのも束の間。黒塗りの外車が北ゲートに横付けされスタッフが後部座席のドアを開けると、パッと周りが華やぐような空気が流れ、車の中からミサさんが降り立った。
その空気に吸い寄せられるように、車道に背を向けていた貴博さんが後ろを振り返った途端、それまで仁さんと談笑していたのでにこやかだった貴博さんの表情が、見る見るうちに氷のような冷たい表情へと変わっていった。
「ミサ……」
遠目に見ても、貴博さんの今にも震えそうな唇から、ミサと発せられたのが見て取れる。
「貴博さん……」
そんな表情を見て胸が苦しくなってしまい、無意識に貴博さんの名前を呟いていた。
ずっと会えなかった人に、ここまで感情を揺さぶられるのだろうか。そんなにも貴博さんはミサさんのことを愛していたの?誰よりも大切だった事は、私にもわかっていた。でもそこまで愛おしかったの? それなのに……。そんな貴博さんをわかっていながら別の男性と結婚してしまったミサさんは、どれほど罪な人なのだろう。貴博さん……。ミサさんへの想いは、まだ消えてなかったの?
しかし、同時に大勢の人が居る中で、そこだけまるでレッドカーペットが敷かれていくようにミサさんがゆっくりと視線を前方に向けると、その視線の先には貴博さんを捉えており、一歩一歩、貴博さんの方へと何の迷いもなく歩みを進め始め、そして貴博さんの目の前でミサさんが立ち止まった。何故ミサさんまでもが、すぐに貴博さんを見つけられるなんて。どうしてなの?
ミサさん、やめて。何ももう、貴博さんには話しかけないで欲しい。
「貴博……。久しぶり」
「おはようございます」
エッ……。
貴博さんは昔と変わらず、この世界の先輩への敬意をはらうように深々と頭を下げ、もう一度頭を上げた時にはすでに貴博さんの顔は、穏やかな表情に変わっていた。
貴博さん……。どれだけ自分の心の内を押し殺せるの?どうしてそこまで出来るのだろう。
「元気だった? 全然、連絡もしてくれなかったじゃない? 何だか暫く見ないうちに、一段と男らしくなったわね」