新そよ風に乗って 〜夢先案内人〜
「それじゃ、お先に。またいつか、会えたらいいね」
「はい。お疲れ様でした」
仁さんと別れてすぐにマネージャーから呼ばれて、車に乗ってショッピングセンターを後にする。早朝からの撮影で長いこと居たような気がしていたが、まだ十三時前。マネージャーと軽いランチを食べて自宅まで送ってもらった後、メイクを落としてもう一度メイクをし直していた。
別に意味はない。ただ貴博さんから連絡が来るという言葉を信じて、気を引き締めるためにもメイクをし直している感じだ。気を紛らわすためにも……。今頃、貴博さんとミサさんは仲良く食事をしながら、何を話しているのだろう。仁さんはあんな風に言ってくれたけれど、やはり貴博さんとミサさんの事が気になって仕方がない。このまままた付き合うようになってしまったら……。ううん、そんな事はない。だってミサさんは結婚しているんだから、貴博さんと付き合うなんてことは出来るはずがない。一度振った相手ともう一度付き合うなんて、貴博さんだってきっと嫌な……はず。もしそんな事になったら、それは不倫というもので……。あぁ。貴博さんとミサさんが仕事とはいえ、頬を寄せて仲睦ましく見つめ合っていた光景が何度も思い出され、その度に心が荒んでジッとしては居られず部屋の中をウロウロしてしまっている。ふと、その時、ポケットの中で携帯がマナーモードのまま振動し始めて慌てて携帯を出して見ると、そこには高橋貴博と画面に表示されていた。
貴博さん……。
待って、待って、待ち望んでいた連絡が今、貴博さんから入っている。すぐに出たいはずなのに、何故か手が震えてしまいなかなかキー操作が出来なくて出るのが遅くなってしまった。
「もしもし……」
緊張のあまり、声が掠れている。
「もしもし、高橋です。今、大丈夫?」
「はい」
もっともっと貴博さんと話したいのに、心とは裏腹に出てくるのは素っ気ない言の葉ばかり。
「今、下に居るんだけど、出てこられる?」
エッ……。
「下って……」
「君の家の前に居る」
嘘!
「あっ……。す、すぐ行きます」
「急がなくていいから」