新そよ風に乗って 〜夢先案内人〜

心恋し温もり

ゾクッとするほどの綺麗な瞳で真っ直ぐに捉えられた視線を、逸らすことが出来ずにいる。でも、自分の正直な気持ちをぶつけたことに後悔はしていない。たとえ貴博さんにとって、それが重荷に感じてこのまま終わってしまったとしても、何もせずに手を拱いている自分にずっと腹が立っていたのは事実。貴博さんがちゃんと私の想いを受け止めて結論を出してくれたのだとしたら、甘んじてそれに従うつもりでいる。足手まといにだけはなりたくない。これから先の貴博さんの人生において、私の立ち位置は何処にあるのかを知りたかったから。まったくかけ離れた位置からでしか見守ることしか出来なくなったとしても、振り返った時、いつも貴博さんの前に出ると萎縮してしまって何も言えなくなってしまう自分しか思い浮かばないより、時に自分の意思表示をはっきりと伝えられていたことの方が、反省と後悔とを天秤に掛けた時、反省の方がどれだけ明るい心で居られることだろう。後悔だけが残ってしまったら、不完全燃焼の自分への思いで心が疲弊してしまうだけだろうから。
「君を……」
貴博さんが言い掛けたその時、ちょうど貴博さんの車の後ろに普通では考えられないような距離まで接近してそのまま車が停車すると、運転席の男性が降りてきて後部座席のドアを開ける音がしていた。何事かと貴博さんはチラッと後方を窓から見てすぐにまた視線を私に戻したが、気になって後ろの車の方を見ると、思わず息を呑み込んでしまった。
「ミサ……さん」
後部座席のドアが開いてそこから出てきた人は紛れもない、昼間別れた時と同じスタイルのミサさんだった。慌てて貴博さんに視線を戻すと、貴博さんはまるで来る事を想定していたとでもいった感じで、全く動じない瞳で私をまた捉えていた。
「貴博さん……。貴博さんが呼ばれたんですか?」
「……」
「貴博さん。何故ここに、ミサさんが居……」
「そういう事だったの」
エッ……。
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