恋文の隠し場所 〜その想いを読み解いて〜
 恋文を読み解く先生の隣で約2時間、わかったことは『横顔がかっこいい』『なんとか郎』さんを『慕っている』女性が書いた手紙だ、ということだけだった。

「それだけ分かれば十分じゃないですか? 私なんにも分かんなかったので、すごいと思いました!」

 すると、先生がこちらに少年のような笑みを向けた。

「でも、気になりません? 彼のどこが好きだったのか、彼女はどう思いを伝えようとしたのか」

 先生は手紙を指でなぞる。

「彼女は覚えた文字を使って、こんなに長く思いをしたためているのです。全部読み解いて、彼女の想いをすべて汲み取ってみたいですよね」

「そう……かもしれませんね」

 私が言うと、先生ははっとして頬を染める。

「なんか、すみません。……また、子供っぽかったですね」

 先生がうつむいた。
 少し残念だ。キラキラした笑みで語る先生につい見惚れてしまい、適当な返事をしてしまったのだ。
 けれど、頬を赤くする先生も可愛い。

 なんて言えるわけもなく、曖昧に微笑んでいると、先生が仕切り直す。

「さて、キリもいいですし続きはまた来週。……で、いいですか、宍戸さん?」

「え!?」

 思わず大声を出してしまった。

「あ、すみません、なにか不都合でも……」

「いえ、来週も参加させてもらるんだなあ、と……」

 おどおどしていると、先生はまた「すみません」と小さく謝った。

「ご迷惑でなければ。女性の書いた手紙なので、女性の方がより理解が深いかな、などと思いまして」

 先生はそれから、「長時間引き止めてしまったな」「ご迷惑だったか」などブツブツ唱える。

「別に、迷惑だなんて思ってないです! 楽しかったので、ぜひ来週もお願いします!」

 先生の独り言のようなつぶやきを遮るように、大きな声で言った。すると、先生は嬉しそうに破顔する。

「ではまた、書道教室の後にでも。どうです?」

 私が「はい」とうなずくと、先生は満足そうに笑った。つられて私も微笑む。

 その日はお借りした書道具を持って、先生の部屋からおいとました。
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