恋文の隠し場所 〜その想いを読み解いて〜
 ◇◇◇

 翌月曜日。出勤すると、さっそく光子さんが私に駆け寄ってきた。

「杏凪ちゃん、入会決めたのね!」

 前のめりで聞かれて、思わず後ろにのけぞる。「は、はい」と慌てて答えると、光子さんは急に背筋をしゃんとして、今度はなぜか乙女のような顔になった。

「はあ、先生に教わる杏凪ちゃん……、そこから始まる恋愛物語(ラブ・ストーリー)……。先生を取られてしまうのは残念だけど。……でも、杏凪ちゃんなら……、杏凪ちゃんなら、推せる。大丈夫、推しカプよ!」

 言いながら、うっとりしたり急に涙目になったり、目の前で忙しく表情を変える光子さん。

「は、はぁ……」

 何を言っているのかよく分からなかったが、最後に光子さんは「マキの月謝も2ヶ月半額になったから、助かったわ。土曜日、楽しみね」と言い残して去っていった。

 私も土曜日が、楽しみだった。
 先生が貸してくれた道具を使うのも、新しい文字を半紙に書くのも楽しみだし、恋文の続きも気になる。

 そんな気持ちで平日を過ごしていたら、仕事も絶好調だった。

 店長には「杏凪ちゃん、ごきげんだね」と言われるし、営業職の同期には「なんかイイことあったの?」と気持ち悪がられた。
 彼は「女の子にそんなこと言うんじゃありません!」と光子さんに怒られていたが。

 実際、マイナス思考よりもわくわくした気持ちが勝っていたし、悪い方向に考えることはなくなった。

 一週間がやたらと早く感じた。
 金曜の仕事終わり、光子さんに「また明日」と意味深なウインクを投げられ、苦笑いが漏れた。
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