恋文の隠し場所 〜その想いを読み解いて〜
「マイナス思考はマイナスを産むの! だいたい杏凪ちゃんのミスが会社を左右してたらね、この会社はとっくに倒産してるから! そんなことより前を向きなさい! ほら、リセットリセット!」
「そんなこと言われても〜」
泣きつくと、今度は光子さんに背中をパシンと叩かれた。
「若いんだから楽しいことなんていくらでもあるでしょ! 私なんか家に帰ったら子供の宿題見て夕飯作って旦那の愚痴を聞いてっていう生産性のない毎日の繰り返しなんだから。趣味とかないの?」
「趣味、ですかぁ……」
言われてみれば、これといって特に無い。
平日は仕事が終われば帰宅し、ビールを飲みながらドラマを見たり、アニメを見たり。
休日も部屋の掃除や買い物をしていると終わってしまう。
思案顔で黙っていると、光子さんにまた背中をバシっと叩かれた。
「趣味もない、彼氏もない、20代の女子とは思えない!」
「そんなこと――」
無い、なんて言えない。
10代の頃は、20代はもう少しキラキラしていると思っていた。恋人と付き合って、趣味を共有して……。そんな未来を思い描いていた時もあった。
けれど、大学時代に付き合っていた彼氏とは社会人になり自然消滅してしまった。
それからは恋人はいないが、今の暮らしは気ままで居心地がいい。だから、今まで何かを開拓しようという気にはならなかったのだ。
返事の代わりに溜息が漏れた。
すると、光子さんは私になにかの紙を差し出した。
「書道……教室……?」
それは『一緒に習字始めませんか?』の文言が並ぶチラシだった。
「通ってるんだけど、杏凪ちゃんもどう?」
「習字、ですか……」
「知り合いが入会する時は入会料が無料になるのよ! ほら、どう? 無料体験だけでも」
「は、はぁ……」
いきなり飛び出した案に戸惑っていると、光子さんは「自分から行動しないとマイナス思考も消えないわよ?」と微笑む。
「じゃあ、とりあえず体験だけ……」
「分かった、電話しておくわね! 今週の土曜日、時間と場所はこれに書いてあるから!」
光子さんは差し出した紙を私に押し付けると、鼻歌を唄いながら給湯室から出ていった。
なぜだか楽しそうな光子さんの背中を目で追って、見えなくなってから手元に目線を落とした。
――自分から行動しないと、か。
半ば無理やり決められてしまった書道教室の体験だったが、私は前向きに捉えることにした。
「そんなこと言われても〜」
泣きつくと、今度は光子さんに背中をパシンと叩かれた。
「若いんだから楽しいことなんていくらでもあるでしょ! 私なんか家に帰ったら子供の宿題見て夕飯作って旦那の愚痴を聞いてっていう生産性のない毎日の繰り返しなんだから。趣味とかないの?」
「趣味、ですかぁ……」
言われてみれば、これといって特に無い。
平日は仕事が終われば帰宅し、ビールを飲みながらドラマを見たり、アニメを見たり。
休日も部屋の掃除や買い物をしていると終わってしまう。
思案顔で黙っていると、光子さんにまた背中をバシっと叩かれた。
「趣味もない、彼氏もない、20代の女子とは思えない!」
「そんなこと――」
無い、なんて言えない。
10代の頃は、20代はもう少しキラキラしていると思っていた。恋人と付き合って、趣味を共有して……。そんな未来を思い描いていた時もあった。
けれど、大学時代に付き合っていた彼氏とは社会人になり自然消滅してしまった。
それからは恋人はいないが、今の暮らしは気ままで居心地がいい。だから、今まで何かを開拓しようという気にはならなかったのだ。
返事の代わりに溜息が漏れた。
すると、光子さんは私になにかの紙を差し出した。
「書道……教室……?」
それは『一緒に習字始めませんか?』の文言が並ぶチラシだった。
「通ってるんだけど、杏凪ちゃんもどう?」
「習字、ですか……」
「知り合いが入会する時は入会料が無料になるのよ! ほら、どう? 無料体験だけでも」
「は、はぁ……」
いきなり飛び出した案に戸惑っていると、光子さんは「自分から行動しないとマイナス思考も消えないわよ?」と微笑む。
「じゃあ、とりあえず体験だけ……」
「分かった、電話しておくわね! 今週の土曜日、時間と場所はこれに書いてあるから!」
光子さんは差し出した紙を私に押し付けると、鼻歌を唄いながら給湯室から出ていった。
なぜだか楽しそうな光子さんの背中を目で追って、見えなくなってから手元に目線を落とした。
――自分から行動しないと、か。
半ば無理やり決められてしまった書道教室の体験だったが、私は前向きに捉えることにした。