恋文の隠し場所 〜その想いを読み解いて〜
 支店の皆はほとんど外にランチを食べに行く。私と光子さんは支店の端の方で、互いに持ってきた弁当を広げていた。

「で、鶴田先生と何があったの!?」

 お弁当の蓋を開けながら、光子さんが待っていましたとばかりに訊いてくる。

「ちょっと、なんていうか、個人的にやりとりをしていたのですが……」

 光子さんは「うんうん」と頷きながら興味津々でこちらに乗り出してくる。

「……最近、個展の準備が忙しいそうで、その時間がなくなってしまいまして」

「寂しいのね」

 ずばり言われて、ピクリと肩が揺れた。けれど、隠しても仕方がないので、コクリと頷いた。

「恋煩い、ごちそうさま」

 光子さんはクスリと笑った。

「そ、そんなぁ」

 意を決して打ち明けたのに、そんな言葉で終わらせられては見捨てられたようで悲しい。

「まだお付き合いはしてないのね」

「そ、そんな! 私は先生とどうこうなろうだなんて……」

「思ってないの? それは、矛盾してるでしょ」

 ツッコまれ、はっとする。

「仕方ないなあ、ひと肌脱ぎますか」

「え?」

 光子さんは気づけば、箸を片手に反対の手でスマホを操作する。

「言わなかった? 私、杏凪ちゃんと鶴田先生の恋なら応援するって。二人がくっついたら、絶対に可愛いもの」

 その言葉に思わず噎せていると、光子さんは「これだ」と言う。

「書道家・鶴田佳之、個展。ええっと、開催期間は……今日までじゃない!」

 光子さんはその画面を私に突きつけた。

「行きなさい! 仕事終わったら、すぐ」

「でも、会えるでしょうか……」

「会える! 最終日よ? 先生は絶対に会場にいるから!」

「でも、お邪魔じゃないでしょうか……?」

「お客さんは一人でも多いほうが嬉しいに決まってるでしょ!」

 光子さんに「マイナス思考、発動してる」とおでこを小突かれた。

「とにかく行ってみなさいよ! まずは行動! 当たって砕けろ! ……あ、砕けちゃダメね」

 光子さんが自分でケラケラと笑い出したから、なんだか心が軽くなった。

 ――ちょっとお邪魔するだけなら、行ってみようかな。
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