恋文の隠し場所 〜その想いを読み解いて〜

嘘と恋文

 次の習字教室は行くのに身体が重かった。
 それまでは楽しくて、先生に会えるのが楽しみで仕方なかったのに。

 仕事でのミスも増え、変わりかけていた日常が戻ってきてしまった。
 そんな中での習字教室、行ってもまた前向きになれるだろうか。


 それでも土曜日はやって来る。
 行かなければいいのだけれど、光子さんに何か詮索されるのも面倒くさくて、教室へ向かった。

 何度も姿勢を指摘され、ため息がこぼれた。
 基礎以前の問題だ。他の生徒たちに申し訳なくて、身を小さくしたら余計に指摘されてしまった。

「具合、良くないですか?」

 教室を終えて片付けていると、先生に声をかけられた。
 ドキリと胸が鳴る。

「いえ、大丈夫です……」

 慌てて答えた。先生にも心配をかけてしまった。申し訳なさすぎる。

「宍戸さん、体調悪いときは無理しないでいいんですよ。僕は個展も終わったので、……よろしければ、ご自宅までお送りしましょうか?」

「え……!?」

 そんな、申し訳ない!
 というか、全然体調は悪くない。
 むしろ、雲の上にいるよう人に、家まで車で送ってもらうなんて……っ!

「あの、本当に元気です! ほら、元気ゲンキ!」

 両拳を突き上げてから、両肘を曲げてポーズを取った。

「そういうの、空元気っていうんですよ」

 先生は私の手首を優しく掴んだ。
 思わず目を見開くと、優しく微笑む先生と目が合う。
 頬が、顔中が、耳が、熱くなる。

「ほら、顔赤いじゃないですか」

 それは先生に触れられたからです、とは言えない。

「大人しく、今日は送られてください。僕が心配なんです」

 そう言われてしまっては、もう「ノー」とは言えなくなってしまう。

 先生が自分の荷物と、私の荷物を手に持つ。
 他の生徒はもういない。

「歩けますか?」

 コクリと頷けば、「帰りましょう」と先生が教室を出る。
 私は仕方なく、先生の後を追った。
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