恋文の隠し場所 〜その想いを読み解いて〜

始めての書道教室

 ――してやられた。

 教室の一番後ろで、前に座る小さな背中たちを見つめながら溜息をこぼした。
 小学生ばかり15人ほどの教室に、大人がぽつんと一人。隣に座っている子は幾分大きそうだが、それでも化粧っ気のないところを見ると中学生だろう。

 私がキョロキョロとしている間にも、子どもたちは各々習字道具を広げ、準備をしている。
 しばらくすると、先生が今日練習する文字の説明を始めた。初回は手ぶらでいいと聞いていた私は、その様子を何気なしに眺める。

 子どもたちに半紙が配られると、皆集中して筆を取る。すると先生がこちらにやって来て、私のテーブルに書道セットを置いた。

「宍戸さん、書道を習ったことはありますか?」

「……すみません、ない、です」

 思わず小さくなってそう答えると、彼はふふっと小さく笑った。

「別に謝ることないですよ? でも、(すずり)や墨の使い方はご存知ですよね? 国語の授業でも必修ですし」

「それくらいなら、まあ」

 自信もなく、小さくぼそぼそっと答えると、彼は手際よく私の前に書道具を並べてくれた。硯に墨汁を注ぎながら、先生は言う。

「じゃあ、何か書いてみましょうか。まずは書くことが楽しいと思えることが大事です」

 微笑みながら私の前に半紙を持ってきた先生は、文鎮(ぶんちん)でそれを挟んだ。

「あの、私みたいな大人がいても良いのでしょうか……?」

 思わず聞いてしまった。小声だったにも関わらず、隣の中学生っぽい子がクスクスと笑い出す。先生が「集中して下さい」と隣の子をたしなめるから、余計に申し訳なさが募った。

「特に年齢制限を設けているわけではないので。今はたまたま小学生が多いってだけで」

 私はもう一度「すみません」と小声で謝った。

「書けたら、挙手で知らせてくださいね」

 先生はにこやかにそう言うと、既に手を挙げている生徒の所へ向かった。
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