『Billion Love』~17回目のプロポーズは断ることが出来ない?!

(翌月の九月、凜24歳)

『翔、今朝ママが息を引き取りました。通夜は明後日の十八時です』

MXGPの十七戦をトルコで終えた翌日、俺の元に届いた凜からのメール。
父親からもここ数日昏睡状態だとは連絡があったが、今朝旅だったらしい。
きっと凜は憔悴しきってるはずだ。
すぐさまチームの監督に事情を説明し、葬儀に出席するため帰国することにした。

***

羽田空港からタクシーで凜の家へと向かう。
その車内で、凜にかける言葉を必死に探していた。

「翔、来たか」
「……ん、凜は?」
「葬儀業者の人と奥で打ち合わせしてる」

凜の自宅に到着すると、店の駐車場に何台もの車が停まっていて、見慣れぬ県外ナンバーに親戚の人だと理解出来た。

自宅部分へと足を踏み入れると、生気を失った状態の凛が葬儀業者に囲まれ、打ち合わせしているのを視界で捉えた。
泣きはらしたのが見て取れる。
今にも倒れそうなほど、限界に見えた。
凜の隣に無言で座り、膝の上に置かれた彼女の手をぎゅっと握る。

「翔っ」
「遅くなってごめんな」
「帰って来てくれてありがと」
「当たり前だろ」

俯いたら今にも涙が零れそうなほど涙腺が緩んでいる。
そんな彼女の背中を摩り、何も出来ないけど寄り添うことくらいは出来るはず。

***

「翔、……帰らないの?」
「帰って欲しいのか?」
「そういう意味じゃ……」
「今週末に日本選手権あるから、このまま滞在する予定。チームは後から来るから」
「……そうなんだ」

無事に凜ママを送り出し、凜の家で放心状態の俺ら。
何とも言えない虚無感に襲われている。

凛ママの存在はとてつもなく大きいと改めて実感した。

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