『Billion Love』~17回目のプロポーズは断ることが出来ない?!
(三か月後の十二月、翔25歳、世界ランキング2位)
凛の母親が亡くなり、暫くは凜も塞ぎ込んでいたが、凜ママの手記が彼女の支えになったようで、少しずつではあるが、前向きに歩き出したようだ。
毎日傍にいて見守ってやりたくても、自分に置かれている立場を投げ出すことも出来ず、電話とメールでしか彼女の心に寄り添えない自分が歯がゆくて。
金庫の鍵を預かっていた俺はそれを凜に渡すと、中に手記があった。
母親は偉大だ。
愛する娘のために、いなくなった後のこともちゃんと考えていて。
自分が親になったら、同じように出来るだろうか?
世界選手権も全日本選手権も終わっている今。
来シーズンに向け、既に準備を始めているが、少しだけ時間に余裕が出来たこともあり、いつもより早めに帰国の途に就こうと、フランスのシャルル・ド・ゴール空港へと向かう途中、俺を乗せた車が事故に巻き込まれた。
***
「翔パパっ、どうなの?!翔は大丈夫なの?怪我の具合は?どこがどれくらい怪我したの?すぐ治るって?お医者さんは何だって?」
「……凜ちゃん、そんなに一度に質問されてもおじさん困っちゃうよ」
「あ、……ごめんなさい」
翔が交通事故に巻き込まれたと知らせを受け、翔パパと直ぐにフランスへと向かった。
そして、レーシングチームのスタッフが空港まで迎えに来てくれて、その車で病院に直行した。
翔は頭に包帯が巻かれ、首には頸椎固定装具が成され、掛け布団から露わになった左脚は固定装具がしてあり、天井から吊るされていた。
見るからに痛々しい感じで、点滴が刺さっている手をそっと握りしめた。
「煩くて寝れねぇ」
「翔っ!!起きてるの?!」
「病室だから、もう少し静かにしろ」
「………ごめん」