『Billion Love』~17回目のプロポーズは断ることが出来ない?!
「脚は切断されたりしねぇから、安心しろ」
「そんな言い方しなくても……」
「頭は五針縫っただけ、首は軽いむち打ちだから心配要らない」
「………ん」
目を瞑ったまま、淡々と答える翔。
意識が回復した後に、医師から聞いた事なんだと思うけど、どんな思いでそれを口にしてるのか……。
想像しただけで胸が押し潰されそうになる。
「リハビリすれば日常生活は可能だって」
「………バイクは?」
「今はわかんねぇ。……ダメなら親父の店継げばいいし」
「そんな……」
言いたくないであろう言葉を言わせてしまった。
だけど、意外にも取り乱さない翔に何故か安心感も覚えた。
チームドクターからの話だと、内側側副靭帯と前十字靭帯が損傷したらしい。
内側側副靭帯は温存治療で経過も良好になるらしいが、前十字靭帯は選手生活を維持するなら手術が必要らしい。
術後のリハビリ経過にもよるが、トップ選手として復帰出来るかどうかは未知だという。
メスを入れてでも選手として活動するか、引退して第二の人生をスタートさせるか。
今、翔は大きな決断を強いられているようだ。
「痛む?」
「痛み止めしてあるから、今は平気」
「何か飲む?」
「口移しで飲ましてくれんの?」
「………バカ」
私に心配させないように気丈に振る舞う翔に、本当に胸が痛い。
神様って本当にいるのかな?
私からママを奪って、翔から脚を奪おうとするだなんて……。
(四日後の病室)
「翔、あのね?」
「……ん?」
「私会社辞めて、ママの店継ごうと思う」
「凜ママの食堂?」
「うん。ママの手記にママの想いがいっぱい書いてあってね。その想いを形に残しておきたいから」
「……そっか。いいんじゃね?」