『Billion Love』~17回目のプロポーズは断ることが出来ない?!
「俺にくれるのかと思った」
にやりと腹黒い笑みを浮かべた翔は、『ご馳走さ~ん』と嘲笑いながら軽く走り出す。
いつもなら『こら~っ!』って追いかけるんだけど、今日は何故かそんな気分になれなかった。
こんな風に他愛ないやり取りももう出来なくなるんだなぁと思うと、物寂しさがこみ上げて来て……。
追いかけて来ない私を心配した翔が、私の元に戻って来た。
「どした?……腹でも痛いか?」
「………ここが痛い」
「えっ?……大丈夫か?」
彼を失ってしまうという焦燥感に胸の奥が酷く痛む。
胸に手を当てて彼を見上げたら、今まで見たことも無いほどの慌てぶりに思わず吹き出してしまった。
「んだよっ、嘘かよ」
「嘘じゃないよ。本当に痛くて苦しかったのっ」
駆け寄った彼が背を向けた。
それがちょっぴり切なくて、彼のTシャツを掴んでいた。
「ん?」
「背中貸して」
「……ったく、しょうがねぇなぁ~」
彼に甘える時はいつも彼の背中。
恋人だったらぎゅうっと抱き締めて貰えるだろうけど、私たちはそういう関係じゃない。
彼のトレーニングの一環として、こうして彼におんぶして貰う。
手を繋いだり、抱き締めて貰うことも出来ないけど。
私だけに許された特別の時間。
「汗臭くねぇ?」
「大丈夫」
「お前、ある意味すげぇな」
汗だくで背中に張り付いてるTシャツの彼に背後から抱きつく。
もちろん、汗の匂いはするんだけど、もう慣れてるからなのかな。
臭いと思ったことは一度もない。
Tシャツ越しに感じる彼の背筋や肩の三角筋や僧帽筋が逞しいことに、ドキドキと胸が高鳴って……。