『Billion Love』~17回目のプロポーズは断ることが出来ない?!
(出国の前日)
「り~~ん~~っ!翔くん、怪我したみたいだからっ、手当てしてあげて~っ!」
「えぇ~~ッ?!怪我酷いのっ?!」
二階の自室で夏休みの宿題をしていると、一階から母親が叫んでいる。
仕込み時間だからお客さんはいない。
二階から慌てて階段を駆け下りると、店の入口に泥だらけの翔が座り込んでいた。
「どこ怪我したの?怪我は酷いの?痛む?座り込んでるけど、まさか、足じゃないよね?!」
「んな一度に質問すんな。軽い熱中症でクラクラして倒れた時に腕切っただけだから」
「もうっ、大怪我だと思ったじゃない」
フレックスエアージャージの上腕部分が少し切れている。
明日出発するってのに、前日でもフルに練習するだなんて。
「とりあえず、シャワー浴びて来て、タオルはいつものとこ。着替えも出しとく」
「ん、……悪ぃ」
「立てる?……ちょっと待ってて」
店の冷蔵庫に飲み物を取りに行く。
練習終わりの翔の為にスポーツドリンクをいつも常備してある。
「ほら、少し飲んで」
「……さんきゅ」
翔はぐびぐびっと喉を鳴らして飲み干した。
「生き返った」
「無理しすぎだよっ」
「ちょっと考え事してて……風呂借りるな」
「ん」
翔らしくない。
練習中に考え事だなんて。
モトクロスは常に危険と隣り合わせだから、集中しないとダメなのに。
浴室からシャワーの音が聞こえたのを確認して、脱衣所に着替えを置く。
すっかり家族同然で、翔の服は我が家に結構ある。
母親が翔のことを可愛がってて、私と翔を双子だと思ってる節がある。