空に一番近い彼

夢で終わってしまった夢

◇◇◇

キィーーーーンッ グォーーーーッ

ジェットエンジンをふかし、轟音立て飛行機が離陸する。
大空へ旅立つ音。

私には、もう、その音は聞こえない。

バイバイ 

展望デッキのベンチからゆっくりと立ち上がり、恋焦がれた飛行機に別れを告げた。


私は幼い頃からパイロットになるのが夢だった。初めて乗った飛行機に心を奪われ、自ら操縦桿を握り、巨大な飛行機の操縦席から空を見たい。そう思っていた。

勉強も、スポーツも、夢を叶えるために必死にやってきた。難関といわれる大学に合格し、大学3年の夏にはインターンシップにも参加した。大学生活は、採用試験を突破するために過ごしたと言っても過言ではない。そしてそんな生活が実を結び、卒業後は大手航空会社の自社養成パイロットとして内定をもらっていた。

けれど……

大学4年のクリスマスを控えたある日、耳に違和感を覚えた。医師からは聴力が徐々に低下し、最終的には聞こえなくなると言われた。

採用担当者からは、別の部署での勤務を提案されたけれど、会社に迷惑をかけてしまうし、それよりも何よりも、自分自身のメンタルを保つ自信がなかった。

内定辞退

コミュニケーションテストで必要な英語力を養うために受験した英検一級の合格証書も、TOEICのスコアシートも、もう、なんの役にも立たないと破り捨てた。

大学を卒業し、皆が新たな道を歩き始めるその中で、私は一人取り残され、生きる希望を失った。
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