空に一番近い彼
『大迫さんは、高い所怖くないんですか?』

『最初は怖かった。だけど、ある程度の高さまでいったら、怖くなくなった。あっ、いつも緊張感は持ってる』

『土曜日が待ち遠しいです。大迫さんの仕事してる姿、早く見たいから』

………

あれ?返事がない。どうしたんだろう…

『大迫さん?私、なんか失礼なこと言いましたか?』

『いいや、言ってない。ただ』

『ただ?』

『駿、駿でいい。大迫さんじゃなくて、駿』

『駿さん、だったら私も美咲でいいです』

『美咲、さん』

美咲、さんって、なんで読点なんかつけるんだろう。もしかして照れてるのかな。

『駿さん、駿さんは何歳なんですか?』

『29』

『私より5歳お兄さんですね。さんはいりません。美咲でいいです』

『美咲』

『はい』

『美咲、美しく咲く、ホントにいい名前だ』

『ありがとうございます』

そんなことを言われると、胸のくすぐったさが蘇る。
私はハッと我に返った。長い時間やり取りをさせてしまった。

『駿さん、土曜日、お待ちしています』

『ああ、会えるの楽しみにしてるよ』

『私もです。では、失礼します』


失礼しますと自分から言ったものの、まだ話したかったなと物足りなさを感じていた。
人と関わりたくない。そう思っていたのに、こんなに話がしたいなんて、私は一体どうしてしまったのだろう……

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