空に一番近い彼

私たちだけの手話

俺は彼女に連れられ屋根裏部屋へやって来た。彼女がおもむろに寝転がる。
俺も彼女の横に寝転がってみた。
確かに、これが夜ならば、星が綺麗に見えるだろう。

『駿さん、さっき木に登っている時、お父さんと手話みたいなやりとりしていましたよね』

『ああ、上にいると声が聞こえないから、ああやって意思を伝えるんだ。ワイヤレスマイクを仕込んだヘルメットを使ったりすることもあるけど、祖父ちゃんは昔から変わらずああやって会話する。だから、俺たちだけで作業をする時はワイヤレスマイクは使わないんだ』

彼女は小刻みに頷きながら、何かを考えているようだった。

『美咲は手話使わないのか?』

彼女は頷いた。

『あまり人と関わりたくないから、覚えなくていいかなぁと思って』

『俺は?俺とも関わりたくない?』

激しく被りを振る。

『だったら、一緒に覚えないか?こうやって会話するのもいいが、直接君を見ながら話したい』

彼女が俺を見つめている。

『焦らず、少しずつ覚えていこう』

口元を緩め微笑んでくれた。

『そうだ。俺たちだけの手話を作ろう』

『え?』

『美咲が、俺に何かして欲しい時、助けて欲しい時、それを見れば俺がすぐにわかるように』

『傍にいて欲しい時も付け足していいですか?』

『もちろん』

俺は考えた。そうだ、こういうのはどうだろう。右手で左鎖骨辺りを掴む仕草をしてみせた。彼女が真似をする。

なかなかいいんじゃないだろうか。

『美咲がその仕草をしたら、俺が傍にいる。遠くにいても、ビデオ通話でやってくれればすぐに駆けつける。君は一人じゃない。いいか?』

彼女はゆっくり大きく頷いた。
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