空に一番近い彼
『俺 人が怖いんだ 仕事でとんでもないミスやらかして以来 人前で上手く話せなくなった 俺、入社2年目だけど、営業成績ダントツトップだったんだ。だから、挽回できるって自分のこと信じてた 俺は出来る奴だって でもダメだった 調子に乗ってたんだよな 段々追い込まれて苦しくて どうしたらいいのかわからなくなった この世から消えたいと思ったけど勇気がなくて 気がついたら みさきを探してた 耳が聞こえないみさきは もしかして俺と同じ気持ちかもしれない だったら一緒にあの世に連れて行こうって勝手に思った』

「ホントに勝手だよ」

『だよな』

「智紀、智紀も逃げていいんだよ。頑張らなくていいんだよ。私、全然頑張ってないもん。毎日散歩したり読書したり、のんびりしてる。頑張って、また失うの怖いし」

『俺 退職願い出すよ 今も逃げてきてるようなもんだけど』

「それでいいんだよ」




『あのさぁ みさき さっきから 玄関ドア 誰かがすんげー叩いてるんだけど』

「え?」

『しかも みさきの名前 メチャ連呼してる 男の声 みさきストーカーされてんじゃないのか』

「されてない。されてないけど、今から修羅場になるかも」

『え』

「ねぇ智紀、キスって誰にする?好きな人にだよね」

『え まぁ そうだよな』

「じゃあ私は智紀に好かれてなかったんだ」

『な 何言い出すんだよ』

「だって私たち、キスどころか手も握ったことないよね」

『俺、尋問されてる』

「まぁ、いいんだけどね」

『俺、出てやろうか』

「ううん、大丈夫」

私はゆっくりと玄関のドアを押し開けた。
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