空に一番近い彼

溢れる想い

◇◇◇

4年前にそんなニュースをやっていたなんて全く知らなかった。もし、その時観ていたら、画面越しだけれど、彼の声を聴くことが出来ていたのに。智紀は私なんかよりも先に彼の存在を知っていたんだな。智紀を羨ましく思うと同時に、嫉妬した。

智紀を見送り、駿さんは車を発車させた。行きとは違い、帰りの道は二人とも何も話さなかった。聞こえないけれど、車の中はとんでもなく静まり返っているのだろうなと想像した。

彼の顔を見たいけれど、見てしまうと余計なことを言ってしまいそうで、ずっと外を眺めていた。眺めていると妙なことに気づく。この道、通ったことがない。どこに向かっているのだろう。

車は狭い道を山の上へ上へと進んでいく。対向車が来たらすれ違うのも大変なくらいの道幅だ。この道はどこに続いているのだろう。今は明るいから良いけれど、夜は運転すること自体難しいだろう。

しばらく行くと突然道幅が広くなった。舗装されていない乗用車一台分が駐車できるスペースがあり、転落防止用の柵も設置されている。駿さんはそこに車を止めた。運転席から降り、助手席に回ると、ドアを開け、私が降りるのをエスコートしてくれた。

駿さんが目を閉じてというジェスチャーをしたので、目を閉じると、私の手を取り歩き始めた。どこまで行くのだろうと思っていると、立ち止まり、私の手のひらに文字を書き始めた。

『あけていいよ』

私はゆっくりと目を開ける。


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