空に一番近い彼
「うわぁ!」

目の前には青空が広がっていた。まるで空にいるようだ。下を見ると足がすくむ。

思わず声が漏れた。
彼がスマホに何か打ち込んでいる。

『俺は、コックピットからの景色も、木の上からの景色も見せてやることはできないけど、ここからの景色だったら見せてやれる』

私は頷いた。

『美咲、俺を見ろ。俺だけを見ろ』

「駿さん」

『これからも、無理に話さなくていいからな。声に出したい時だけ出せばいい』

「駿さん、ありがとう。私、貴方のこと愛してます。キス現場を見てしまった時も、智紀が私より前に貴方のこと知ってたってわかった時も、もの凄く嫌だった。胸が苦しくて苦しくて…私、私、あなたのこと」

そこまで話した時、彼の腕が私の腰を強く引き寄せた。前髪を優しく撫で《愛してる》と口を動かし、そのまま唇を重ねた。お互いを求め合うような激しいキス。彼の背中に回した手にも力が入る。
このまま離れたくなかった。ずっと彼に抱きしめていて欲しかった。
私の唇から彼の唇がゆっくりと離れる。

《そろそろ帰ろう》

私は仕方なく頷いた。日が暮れてしまったら帰れなくなってしまう。

帰りの車の中は、来た時とは違い、とても幸せな気持ちだった。外の景色ではなく、ずっと駿さんの運転する横顔を見つめていた。

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