空に一番近い彼
★★★

どうして人がいるんだ!
入口には立ち入り禁止の看板も設置していた筈なのに、どこから入ってきたんだ。

俺は女性の背後から呼びかけた。

「そこで何をしているんですか?」

チェーンソーの音がうるさくて聞こえないのか、反応がない。

仕方ないな

俺は近づきながら声をかけた。
全くこちらを向こうとしない。それどころか、先へ進もうとする。

何を考えているんだ。

俺は咄嗟に女性の腕を掴んだ。
女性は驚いた表情で俺を見つめる。
あまりに美人だったので、少し動揺したが、すぐに気を取り直た。
美人だろうがなんだろうが、危ないものは危ない。

「どこに行こうとしているんだ?今、木を伐採中だぞ。危ないだろ。わざわざ怪我をしに行くつもりか?」

俺の顔をじっと見つめている。
これでわかってくれただろうと思ったが、彼女は首を傾げた。
そして、ジェスチャーで俺に伝える。

耳が聞こえない

俺は驚いた。耳が聞こえない女性が何故一人でこんなところにいるんだと。

だが今は、とにかく、この場所から離れろと伝えなければならない。どうやったらいいか考えた。
とりあえず、ゆっくり話してみよう。

『あ ぶ な い』

それでも首を傾げ、キョトンとしている。
そうだ、文字で伝えればいい。
俺はスマホのメモ機能に
ここから早く離れてと入力し彼女に見せた。
ようやく理解してくれたのか、頭を下げ、踵を返した。

しばらく彼女の後ろ姿を目で追った。
別の方角にある別荘地の方へ歩いて行く。
この時期、殆どの別荘には人はおらず閑散としていて、特に夜はとても暗く寂しい。

こんなところに、あんな美人がいるなんて、思ってもみなかった。
家族と来ているのだろうと想像した。

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