空に一番近い彼
おっと、ここでもたもたしている場合ではない。
俺は現場まで急いだ。

「駿(しゅん)戻って来たとこ悪いが、スチール持って来てくれないか」

「親父、小型がいるのか?」

「ああ、スチールの方がいい。じいさんもその方がいいと思うからな」

「わかった」

俺はもと来た道を戻る。
今、俺たちは別荘の持ち主に依頼され、育ち過ぎて手に負えなくなった木の伐採を行っている。木に登り作業をしているのは祖父で、この道50年のベテランだ。持ってくるように頼まれたのは、チェーンソーの一種で細かい枝を切るのに適しているもの。

俺は別荘の入り口に止めてあるミニバンへ急いだ。
途中、女性がいた場所を通ろうとした時、キーホルダーのついた鍵が落ちていることに気がついた。
もしかしたら、彼女のものかもしれない。だとしたら、きっと困っているだろう。

俺は急いでチェーンソーを取りに行き、親父に渡した。

「親父、俺、ここ離れるけど」

「どこに行くんだ」

「落とし物を届けてくる」

「落とし物?」

「すぐ戻るから」

「ああ、わかった」

俺は彼女の跡を追った。彼女が向かったと思われる別荘の方へ急ぐ。

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