空に一番近い彼

空師の彼

◇◇◇

伐採はいつ終わるのだろうと考えながら空を眺めていると、作業着姿の男性がこちらに向かって歩いて来た。ヘルメットは被っていないが、さっきの人だ。
彼は鍵を持って来てくれた。日焼けしたゴツゴツとした手から鍵を受け取った。

踵を返し戻っていくかと思いきや、突然庭のクスノキに向かって歩いて行く。
木の真下へ行き、上を見上げ、木の幹にそっと耳をあて目を閉じた。

しばらくすると、木を優しく撫で、こちらに向かって歩いてきた。

私はスマホに文字を打ち込みそれを彼に見せる。

『何をしていたんですか?』

彼もスマホを取り出し、文字を打ち込む。

『このクスノキ、苦しそうだ』

え⁉︎ 苦しそう?

『どうして苦しそうなんですか?』

『枝と葉が密集しすぎてる。このままだと内側に日光が当たらず、風通しが悪くなる。虫も発生して枯れてしまう』

『どうすれば良いでしょうか?』

『枝を剪定してやるのがいい』

『どうやって剪定するんですか?』

『俺がやってやる』

『あなたがですか?』

『俺は大迫駿(おおさこ しゅん)空師(そらし)だ。剪定する時は連絡して。ショートメッセージくれればいいから』

彼が携帯番号を見せてくれたので、そのまま自分のスマホに登録した。

『じゃあ、俺は行くよ』

『鍵、届けてくれてありがとうございました』

私は彼の後ろ姿を見送った。
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