麻衣ロード、そのイカレた軌跡❸/イカレ少女、磁場を産み落とす!
その8
麻衣




激しく降りしきる雨の中、別荘前の駐車場で二人は正面を向き合った

「おらー、行くぞ」

最初に仕掛けたのは祥子の方だ

いかにも腕力のありそうな、張りのある長い右腕を大振りして牽制だ

左手でそれを避ける馬美

その不意に距離をつめて、祥子は左からアンダー気味のパンチをボディーへ打ちこんだ

腰を引いて一歩下がる馬美に、今度は右膝を正面から二連打だ

更に後ずさる馬美に、祥子は間をおかず、勢いよく右のストレートを願面めがけて放って行った

それはまさに、ブーンという音が聞こえてきそうなくらいの、ダイナミックなものだった

しかし馬美は素早く反転し、唸る祥子の右腕を捉え、右からの一本背負いで豪快に投げ飛ばした

「それー!」

「わー!」

バシャーン!

勢いよく水たまりに倒れ、大の字となった祥子に、今度は馬美がケリを連発する

祥子はうずくまった体制でケリを受けながらも、徐々に体を起こし、タイミングを見計らっているようだ

この辺はケンカ慣れしてるのが覗えるよ


...



半身起こしたところを、馬美は祥子の巨体に回り込んで払い腰を仕掛けた

しかし、腰を下ろして踏ん張った祥子は、肘で相手の顔面を強打した

「うっ…」

馬美は思わずうめき声を上げ、片膝をついた

そこからは祥子が猛ラッシュをかけていく

「おらー、いくぞ、おらー」

声を上げながらリズムをとって、早いモーションから殴る蹴るの乱れ打ちだ

この攻撃は私も食らったが、パワーがあるし、一気にくるからたまらないよ

両手で防御する馬美に、情け容赦なくケリを数発入れてから、祥子は馬美を起き上がらせてはパンチ、膝蹴りの繰り返しだ

二度これを繰り返すと、馬美は両ひざをついて、そのまま前に倒れた

「祥子、ちょっと待ってろ!」

私は倒れ込んだ馬美に駆け寄った

「馬美、どうだ?」

「参った…」

ここで勝負はついた


...



「祥子、あんたの勝ちだ」

「ああ…」

この勝負、祥子の体力勝ちと言ったところだろう

それとケンカの場数の差もあったようだ

でも、馬美は意地を見せたよ、さすがだった

「高滝さん、あんた、強いな」

祥子も泥まみれでうつぶせになってる馬美に、ぽつりと声をかけた

明らかに馬美の健闘を讃えた言葉だろう

そして雨と汗で濡れた二人の全身からは、湯気が沸き立っていた

それは、激戦を物語るかのように、戦火の後の白い煙のようだった







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