麻衣ロード、そのイカレた軌跡❸/イカレ少女、磁場を産み落とす!
その5
ケイコ


「よう!」

左手で握っている花束を左肩に乗せ、私の正面に立ち止まった麻衣は、もう一方の手を上げ、私に声をかけてきた

「タカシ君、ちょっと休憩ね」

風船を小脇に抱えてこっちに走ってきたタカシ君に私がそう言うと、「うん」と元気に返事をして病室へ戻って行った


...



「私のこと、覚えてるかな?」

「ああ…。喫茶店の前で一度会ったね」

「うん。元気そうでよかった。見舞いに来たよ」

本郷麻衣はそう言ってニヤッと笑うと、視線をロビーのテーブルに向けた

「じゃあ…、あそこに掛けようか」

私がそう声をかけると、麻衣は頷いた

ところがだ…

私が椅子に座ると、麻衣はその正面のイスではなく、テーブルにどっかと尻をのせた

行儀悪い奴だなあ、こいつ!

周りにいる患者さんたちも、怪訝そうに見てるって…


...


「まさか、あんたが見舞いに来てくれるとはね…」

「今回の件は、元はと言えばウチのメンバーが原因だからね。申し訳ないと思ってるよ。”部外者”のアンタにケガさせちゃってさ…。うん…?でも、部外者ってことでもないのかな…」

そう言って麻衣は、左手に持っていた花束の包装紙を剥がし、勢いよく投げだした

花はバラバラとテーブルの上に散乱した

全く…、こいつはやることがいちいち無茶苦茶だな

ロビーにいた人、みんな立ち去っちゃったし…


...



麻衣は、包装紙の内側の紙を掴むと、そのまま私の方へと放った

私の目の前に落ちたそのB4サイズの紙は、新聞記事をコピーしたものだった

ありゃりゃ…、これ、私じゃん!

何とそのコピーの記事には、私の写真が載っていた

それにもう一人…

なんだ!これ、あの時のか…

それは6年前、紅子さんと一緒にひったくりを捕まえた際の新聞記事だった

「図書館でさ、当時の新聞をコピーしてきたんだよ…」

テーブルに腰かけ片手をつきながら、麻衣は私を覗き込むようにそう説明した

ほー、図書館行けば見れんのかあ…

今度、友達誘って行ってみよう

しかし、紅子さんあどけないし、私、完全子供だわ、ハハ…

わー、なつかしいなあ…

えーと、なになに…

”勇敢なちびっこなでしこ二人の大手柄によって、奪われた女性のバッグは無事取り戻すことが出来て…”

私は思わず、コピーの新聞記事に釘付けとなった…





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