麻衣ロード、そのイカレた軌跡❸/イカレ少女、磁場を産み落とす!
その7
麻衣



「本意ではないが、このケジメは取ってもらうよ。だが馬美は、このチームを一緒に起ち上げてきた創立前からの仲間だし、仮にも私の右腕に考えていた、チームの重要メンバーだ。そのお前に、一方的な制裁は忍びない」

その場はまさに、息を飲む音が聞こえてくるくらいの緊迫した空気が流れていた

私はひと通り、みんなの様子を確認した

その大半が、明らかに馬美に対して同情しているようだわ

まあ、当然だろうね…


...



「実は外部から人を呼んである。数週間前、ケンカを売られて、私はそいつとタイマンで戦ったんだよ。結果は私が辛勝したが、負けても不思議ないほど手強かった。私はその女の腕を見込んで、このチームに入れるつもりだ」

ここまで私が告げると、みんなは様々な反応を見せた

いずれにしても、全員がショックを受けたのは間違いない

「馬美には、ここでその女とタイマンを張ってもらう。馬美、お前も意地があるなら、そいつをねじ伏せてみろ。それがさっき言いかけた、お前の言い分に代わる酌量となるんだ」

「ちょっと待ってよ!いくらなんでも、そこまでやることないでしょう!麻衣、お願いだからそんな残酷なことやめて、ねえ…」

案の定、この展開で声を上げたのは、同じく創立前からの同志であるサチコだった

サチコは、今にも泣き叫びそうな声で私に懇願してきた


...



このサチコの一言で、その場はすすり泣くような声が漏れ始めた

何人かのそれは、泣きべそだか、もらい泣きだか、はたまた恐怖で怯えての涙目だかで悲壮な限りだ

その中で、久美とその取り巻き数人は、明らかに私に同調しているようだ

馬美を見る目が冷めているしね

私はサチコの問いかけには答えず、ひたすら馬美を見つめていた


...


やがて、馬美が口を開いた

「わかった、やるよ」

馬美はさすがに潔かった

時計に目をやると、7時ちょうどだった

よし、図ったタイミング通りだ

今度は雨が叩きつけるリビングの窓に寄って、外を見渡した

うん、すでにお出ましのようだ


...



「馬美、お前の相手はもう到着しているようだ。外でやるぞ。私も立ち会う。いくぞ」

馬美は意を決したかのように、素早く席を立ち、玄関に向かった

「馬美、やめてー!」

サチコが席を立ちあがって泣き叫んでる

そのサチコの元に4人ほど駆け寄って、抱き合いながら声を出して泣きじゃくる

どうやら思った以上の臨場感だ

「みんなはここにいていいから、しっかり見てろ!いいか、目をそむけるんじゃねえぞ!」

私は玄関のドアノブを手にして、一旦、中を振り向き、大きな声で怒鳴りつけた

「わかった。みんな、しっかり見なきゃダメだよ。なっ…」

久美がフォローしてら

玄関を出たところには、祥子がバイクから降り、ヘルメットを脱いで立っていた


...



「祥子、これが本来なら私の副官になるべきだった高滝馬美だ。あんたも自己紹介してやんな」

「ああ、双葉女子の津波祥子だよ。あんたには何の恨みもないが、こういう状況なんでね。思いっきりいかせてもらうよ」

「…」

馬美は無言だった

横殴りの雨は、一向に弱まる気配がない

さて、いよいよ嵐の晩の決闘が開幕だ




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