月下の逢瀬
『真緒が本当に好きな奴のところに行ってみろよ。幸せになれるかもしれねーじゃん』


『無責任なこと言わないでよ! フラれるの分かってて行けるわけないじゃない』


『そんなの、分かんないだろ。言ってみなくちゃ、始まらないだろ』


苛ついた理玖の声。
知らないくせに。
あたしの気持ちを知らないくせに。


『じゃあ、言えば理玖はあたしの気持ちを受け入れてくれるの!?』


あたしは理玖を見据えて叫ぶように言った。
出来ないでしょ?
あんなに大切にしている人がいるのに、他の女の子の気持ちなんて迷惑なだけでしょ?


『……俺じゃなくて、真緒の好きな奴の話だろ?』


『だから、理玖だってば! 理玖は受け入れてくれるわけ?』


ぽかんとした顔、それが茫然とした様子に変わった。

暇つぶしか、興味本位か知らないけど、話しかけたからって、こんな事言われるとは考えてもなかっただろう。

あたしだって、言うつもりなんてなかった。

ずっとしまっておく気持ちだった。


『……それ、本気で言ってんの?』


『嘘で言うわけない! だから、理玖を忘れたくて他の人と付き合ったっ。
もういいでしょ? 放っておいてよ!』



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