月下の逢瀬
しばらくして、ワインを注いだグラスを2つ載せたトレイを持って、佐和は戻ってきた。

『何かないかと探したんだけど、クラッカーくらいしかなかったの。普段飲み慣れてないと、こういう時に困るわね』


肩をすくめていう佐和は、ベッドに腰掛けて俺を見た。
寝そべったまま見上げる俺の頬を、優しく撫でる。


『何て顔してるの? 昔、イタズラが見つかって怒られた時と、おんなじ顔してる。
あたし、怒ってないわよ?』


『ごめん』


『もう、いいのよ。さ、起きて』


ぽんぽんと肩を叩き、佐和は先にグラスに口をつけた。
綺麗な喉が上下するのを、なぜか鮮明に覚えている。

あまりに佐和がいつも通りだから、変に気にし過ぎている自分が情けなく感じて、俺はのそのそと起き上がった。
もう一つのグラスを手にとり、もやもやを消すかのように、半分ほど一気に飲んだ。
冷えたワインは喉を潤し、気持ちを落ち着かせてくれた。


『本当に、ごめんな。佐和』


『もう。晃貴ってばしつこいっ。気にしてないわ』


くすくすと笑う佐和。
グラスを置いて、引き寄せた。


『や。こぼれるじゃない』


『明日、俺が洗う』


< 134 / 372 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop