月下の逢瀬
自暴自棄になり、己を傷つけ始めた。

急に荒れだした俺を、父は見ないフリをしたし、母は涙で濡れた瞳にただ映すだけだった。
しかしそれが、二人が静かに俺をせめているように感じて。


いっそ、死んだほうがいいのか。
死んで、二人に詫びたほうがいいのではないか。


そんな時、佐和の母親に会った。
佐和の住んでいたマンションの周りを、ただ歩いていた俺を呼び止める声。
振り返った先には、以前よりも痩せてしまったおばさんが立っていた。


『どうしたの? こんなところで』


『……あ、いや』


佐和を探しているような気になっていた俺は、上手い言い訳が思い付かずに俯いた。

『久しぶりね。ご両親は、お元気でいらっしゃる?』


『はあ、まあ』


気丈で力強かったおばさんが、やつれて小さくなっている姿は辛かった。
そして思い出す。
家の玄関で泣き崩れて謝罪していた姿を。

ああ、この人にも辛い思いをさせてしまったんだ……。


『……ごめんなさい』


気付けば、口からこぼれた言葉。


『晃貴くん? どうしたの?』


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