月下の逢瀬
笑顔の佐和。

最近思い出す顔はすべて、辛そうに歪んだものだったっけ。

久しぶりに見た笑顔に吸い寄せられる。


ああ。俺が奪った笑顔がここにある。


『晃貴くん、どうぞ』


ふわりと香ばしい香りがして、振り返るとおばさんがテーブルにカップを置くところだった。


『おばさん、ごめんなさい』


俺は改めて座り直し、額が床につくほど頭を下げた。


『佐和を殺したの、俺なんだ……』


絞るように出した言葉。
けれど、それを口にした途端、堰をきったように、気持ちが溢れ出した。


『俺が、言ったらいけないこと言った。佐和を追い詰めた……』


額をこすりつけたまま、俺は告白した。
今まで、誰にも言えずに胸に隠していたことを。
佐和との秘められた関係を。


懺悔の言葉。
俺はきっと、誰かに告白して、そして詰られたかったんだ。


お前が悪い、と。
人殺し、と。


いなくなった二人の代わりに、誰かに。


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