月下の逢瀬
お母さんへ


先立つ不孝をお許し下さい。
なんて言葉を、本当に使うことになるなんて思ってもみなかった。

あたしは、晃平を連れて逝きます。
誰にも邪魔されない、何の枷もない場所じゃないと、晃平と一緒にいられないから。

物心ついたときからずっと晃平が好きだった。
片桐晃平の奥さん、と呼ばれるのを楽しみにしていて、そんな未来が必ず来るものだと信じていた。

けど、無理だった。
片桐晃平の妻に、あたしはなれなかった。あたしは、晃平の欲しいものを何もあげられなかった。


諦めようと何度も思ったけど、諦められなくて。
あたしに手を差し出してくれる晃平を、卑怯だと思いながら、でもそれに縋ってしまった。

結果は、知ってるよね。
自分で選び取った道のくせに、辛かった。お母さんはあんなに反対したのにね。
言うこと、聞いておけばよかった。


本当は、裕子さんが晃平の子を妊娠したと聞いた時に、死のうと思った。
けど、あたしが死んだ後も、晃平は裕子さんと生まれてくる赤ちゃんと一緒にいるんだと思うと踏み切れなくて。

そして、思ったの。
死ぬなら晃平と一緒に、って……。


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