月下の逢瀬
読み終えて、深く息を吐いた。


『あの子はずっと前から、こうするつもりでいたのよ』


『………………』


『決して、晃貴くんのせいじゃない。
むしろ、晃貴くんは、佐和の命をつなぎ止めてくれてたのよ。
あなたがいたから、佐和はぎりぎりまで踏ん張れたんだと思う』


『……けど、結局は死なせてしまったよ』


真剣なおばさんの言葉に、自嘲気味に笑った。


『だからあの子はバカなのよ。晃平くんと共にいられる道、それも一番悪い道しか、見えなかったのね』


『晃平、か。いいように扱われておいて、それでも好きなんだもんな、佐和は』


俺なら、佐和を泣かせたりしない。
必ず幸せにしたのに。

打算で裕子さんを選び、子ができたら佐和を捨てるような、兄貴のような真似はしないのに。


「晃平を本当に愛してるから」


今更ながら、それにショックをうけ、傷ついている自分がいる。
俺との半年間は、佐和にとっては何だったんだろうか。
何故、あんな扱いを受けても尚、兄貴を求めたのか。


『兄貴は、佐和を大切にしてなかった。きっと、都合のいい女だと、思ってただけなんだ……っ』


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