月下の逢瀬
・.
  ・

目を覚ますと、理玖の姿はなかった。

カーテンの隙間からは光がこぼれていて、夜中降っていた雨が止んでいることに気付く。


「…………ない、か」


むきだしの胸元を見下ろす。
いつもそこにあったキスマークが、一つも見当たらない。

理玖はあんなに唇を寄せていたのに、印しを一つとして残さなかった。


『俺の印し』


最初の夜に、そう言ってつけたキスマーク。

つけなかったのは、もう理玖のものじゃないから、だね。


やっぱり、終わりなんだよね。



じわりと涙が溢れそうになるのを、手の甲で拭った。


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