月下の逢瀬
くしゃくしゃ、と先生の手があたしの頭を撫でた。


「……先生は、何でそんなに優しくしてくれるの? あたし、先生に大切にされるような特別なところ、ないよ」


あたしのどこに、先生を惹きつけるものがあるんだろう。

不思議で、気付けば聞いていた。


「好きだからだよ、もちろん」


くすりと笑って、先生は考え込むように顎に片手を添えた。


「うん。あとは、やっぱり下心があるからかな。だから、単に優しいっていうのとは違うと思うよ」


「茶化さないで。じゃあ、何で『好き』なの?」


「『好き』に理由付けなんて、必要ないだろ」


さらりと言って、


「例えば」


先生はあたしの手に触れた。


「今、俺は手を握ったけど、本当はそれ以上椎名に触れたいと思ってる。椎名にもっと近付きたい。だけど、他の女には、そんなこと思わない。

それは『好き』だからだ」


長い指が、あたしの指に絡む。
きゅ、と握られて、大きな手のひらを感じる。


「それじゃ椎名は不満?」


< 191 / 372 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop