月下の逢瀬
あっと言う間に昼休みになった。


「真緒、お昼それだけ?」


ゼリー飲料を口にしたあたしに、結衣が呆れたように言った。


「胃が弱ってるみたいでさ、こういうやつが一番楽なんだ」


「そっかあ。でも、そんなのだけだと体力落ちちゃいそうだね」


「ダイエットにはなるよ。最近食べすぎてたから調度いいかも」


「おお、ポジティブじゃん」


あはは、と笑う結衣。
それに合わせて笑おうとした時、ふいに吐き気が襲った。


「あれ? 真緒、どうしたの?」


口元を抑えたあたしに、結衣が首を傾げた。


「あ……、あー。あの、あたし図書委員の仕事頼まれてたの、忘れてた」


「へ?」


「ちょ、ちょっと行くねっ!」


「え!? 真緒?」


驚く結衣の声を背に、教室を走り出た。

急いで一番近いトイレに駆け込んだ。


「げほ…………っ」


油断してた。
自分が食事しなくても、周りの匂いが吐き気を呼ぶなんて。


「っ、はあ……」


吐き気の理由がわかったからって、治まる訳じゃない。


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