月下の逢瀬
しばらく教室を離れていよう。
匂いのしないところを探して、しばらくそこで休もう。


ふらふらとトイレを後にした。


図書室……、あ、玲奈さんに連れて行かれた作法室なら誰もいないかも。

そう考えながら歩いていると、ぐいっと肩を掴まれた。


「痛っ」


「こっち来て」


押し込まれるようにして入れられたのは、調理室だった。

どん、と背中を押されてよろめく。
その合間にぴしゃりとドアを閉めたのは、玲奈さんだった。


「な……に? 玲奈さん」


誰もいない教室。
閉じられたドアの向こうで人が行き交う声はしているけれど、
そのドアは玲奈さんが背にしている。


「これみよがしに具合悪くしないでよ」


睨みすえる顔はキツくて、声は怒りが滲んでいた。


「……え?」


意味がわからなくて問い返したあたしに、玲奈さんは顔をしかめた。
白々しい、と吐き捨てる。


「わざわざあんなところで倒れてみせて、何考えてるの? 理玖が心配するのを期待してるわけ?」


「そ、そんなことない」


玲奈さんはあたしがわざと倒れたのだと思ってる。
慌てて首を横に振って、否定した。


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